もらったもの

ものもらいかと、医者へ行くと「これは紙染虹紋蝶のさなぎですね。」と言われた。今どきめずらしいこともあるものだ。医者は私の左目に眼帯をすると、あくびをかみ殺しながら「とにかく安静第一ですよ。」と言った。
 さなぎは、日に日に大きくなった。毎朝、左目が重くなる。
 いつもまぶたの裏側が、
 モゾモゾ ザワザワ
 グルグル ゴワゴワ
 幼蟲がうまれかわるのを、目をとじてひたすら待つ、待つ、待つ。
 モソモソ ゴロゴロ
 ヒソヒソ ギリギリ 
 やがてさなぎは、はちきれんばかりに熱をおびてくる。まだだ。もう少し、もう少し。
 ザワザワ モソモソ
 パチン、パチパチン
 そろそろと、はれぼったくなったまぶたを持ち上げて、紙染虹紋蝶がいっせいに飛びだした。ひといきで、夜空へ虹が駆け昇る。
 ところが一匹、まぬけな奴がいて、私の目の中へ翅を置き忘れていったらしい。以来、私の左目には、ぺったりと虹色の蝶の翅が張り付いている。おかげで人には、紙染虹紋蝶の羽化なんかで失敗したのかとからかわれるが、目を閉じればいつでも虹が見られるのは、そう悪いことでもない。


(2001年 500文字の心臓 タイトル競作投稿)